Jason Becker

 1969年生まれカリフォルニア州リッチモンド出身。17歳でシュラプネルからデビューした早熟の天才ギタリスト、作曲家。マーティ・フリードマンと共にカコフォニーのギタリストとしてデビュー。ソロでのアルバム・リリースを経てデイヴィッド・リー・ロス・バンドに加入するも、アルバム制作中にALS筋萎縮性側索硬化症(別名ルー・ゲーリッグ病)を発病する。ツアーはキャンセルされ、世界的成功を目の前に医師からは余命3〜5年と宣告を受ける。その後は病気の進行により体の自由が奪われるが、生きたい、音楽を作りたい、というジェイソンの不屈の意志を家族・仲間が支え続け、作曲家として現在も創作活動を続けている。

 父親と叔父がギターを弾く家庭に生まれたジェイソンは、クリスマスにギターを与えられた。その日からギターに夢中になり毎日練習するようになる。クラシックが好きなジェイソンはバッハやパガニーニ、モーツァルト等をギターで弾く一方で、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ウリ・ジョン・ロート、ヴァン・ヘイレンなど当時の彼にとってのギター・ヒーローの曲も、片っ端からコピーしていった。もちろん、イングヴェイ・マルムスティーンも。ジェイソンが高校生の時、マイク・ヴァーニーの Guitar Player 誌のコラム『Spotlight』にデモ・テープを送ったことが、シュラプネルからデビューするきっかけとなった。

 デモ・テープを受けっとったマイクは、17歳のジェイソンとマーティを引き合わせ、カコフォニーとしてデビューさせた。このデビュー・アルバムが高速ツイン・リードにクラシックの要素と東洋的音階を多用したメタル・サウンドが特徴的な「Speed Metal Symphony」('87年)である。このアルバムでジェイソンは、マーティ特有の音階と一捻り加えられたメロディ感覚を吸収する。それに対してマーティは、非の打ち所のない洗練されたジェイソンのテクニックに憧れており、「ジェイソンは眠りながらでも俺のプレイをコピーすることが出来ただろうし、指がつっちまうようなジェイソンのパッセージについていくのがやっとだった」とジェイソンの凄さを語っている。どちらがどのパートを弾いているというクレジットは無く担当パートは不明。しかし「Concerto」「Speed Metal Symphony」を聴けば、バッハ、パガニーニ、モーツアルトなどに精通したジェイソンのものと思われるクラシカルな難解パートが随所に現れる。イニシアティブこそマーティが握っているものの、ジェイソンのアイディアがふんだんに取り込まれていることが判る。

 デビュー・アルバムの翌'88年、バンド活動を行いながらソロ・アルバム「Perpetual Burn」をリリース(同年カコフォニーのセカンド・アルバム「Go Off!」もリリース)。全曲ジェイソンのプレイ(マーティが3曲ギター・ソロで参加)によるインストゥルメンタル・ナンバーで、ソロ・デビュー・アルバムにしてシュレッド・ギタリスト、ジェイソンの最高傑作である。メタル・サウンドでの高速フレーズ・オンパレードで、ジェイソンの代名詞的プレイを堪能することが出来る。超高速フル・ピッキングで縦横無尽に指板を移動しながら刻み、大きな上下降フレーズにスウィープ・ピッキングで繋げていく様は芸術的。とても深いアーミング、下降グリスを使った装飾音、アームを使った大きめのビブラートなど、ジェイソンらしいプレイが随所で聴ける。さらに特筆すべきは、クラシック理論を熟知した作曲家としての才能である。複雑なハーモニーやクラシカルなメロディー・ラインを駆使した曲構成、対位法を用いた曲など、10代のギタリストが書いたとは思えない、素晴らしい作品になっている。

 こんなに才能溢れた若いギタリストが注目されないはずはなく、すぐにデイヴから自分のバンドへと引き抜かれた。この時ジェイソン20歳。しかしこの時既にALSに冒され始めており、身体には違和感を覚え、病気の進行と共に次第に身体は自由に動かなくなっていった。1曲だけ、「It's Showtime」という底抜けに明るい疾走感溢れる曲はジェイソン自身が演奏し、アルバムに残すことが出来た。そしてとうとう、残念ながらバンドを去る日が来てしまった。その後、家族やミュージシャン仲間の力添えの下、25歳の時に2枚目のソロ・アルバム「Perspective」を完成させリリース('96年)。ジェイソン自身がギターを弾いている曲もあるが、徐々に力が弱ってきており、全てを演奏できる状態ではなかった。「End Of The Beginning」ではマイケル・リー・ファーキンスに演奏を依頼するなど、多くのミュージシャンの協力で完成させることができた。映画本編でアルバム制作時の状況が語られている。昨今では、2014年8月にサンフランシスコでジェイソン・ベッカーのチャリティイベント『Jason Becker's Not Dead Yet Festival 3』が開催され、リッチー・コッツエン、マイケル・リー・ファーキンス、スティーブ・ハンターなど多くの友人が駆けつけた。いつまでも愛され続ける、偉大なギタリストである。